楷書を美しく書くためのもう少し高度な3つのポイント

【3つのポイント】3.次画や次々画以降をいつも意識する。

point 3  次画や次々画以降をいつも意識する。

楷書は右上がりのつく書体ですので、それを念頭において書き進めることが大切です。

以降の画がぶつからないように、長さを抑えるべきところは抑えておくこと、

こうすれば、文字が煩雑になりません。

書くときも気持ちよく書けます。

 

 

「空」

3つのポイント「空」1

*あとから右上がりの横画が現れることをあらかじめ意識しておけば、画同士がぶつかることを防ぐことができます。

3つのポイント「空」2

 

 

ついでにもう一箇所

ハネ「空」「衣」

「空」字の赤丸部分、短くハネます。ハネの部分が長くなってしまわないようにしましょう。長くなるとハライのようになってしまいます。ただ、行書や草書では、筆脈が実線としてあらわれますので、必然的にスゥーっと長めになります。

一方、例えば、「衣」字の四画目は、ハライのようなイメージでやや長めに(右斜め上に)ハネます。片かなのレのようなイメージといえばわかりやすいでしょうか。

 

 

さらにもう一箇所

手書きではハネない「空」手書きではハネない「四」「西」

部分は、活字ではハネていますが、手書きではとめます。はねると、その余韻が上部にぶつかって煩雑になるからです。「四」字の四画目や「西」字の五画目 なども同じです。

西町奉行所

 

一方、例えば「光」字や「元」字の最終画は、上部に邪魔をする画がないため、(活字の字体と同様に)はねるようにします。ただ、もし、「元」字の二画目や「光」字の四画目が長くなってしまうと、はねの余韻とかちあってしまいますので、「元」字の二画目、「光」字の四画目は、長くなりすぎないようにすることが大切です。 そうすることによって、スッキリと見せることができますよ。

 

 

 

「留」

3つのポイント「留」1

*あとから右上がりの横画が現れることをあらかじめ意識しておけば、画同士がぶつかることを防ぐことができます。

3つのポイント「留」2

 

 

「鷹」

3つのポイント「鷹」1

*あとから右上がりの横画が現れることをあらかじめ意識しておけば、画同士がぶつかることを防ぐことができます。

(「ご利用は計画的に」とか何とかいうフレーズがありますが、文字を書くときも同じです。「ご運筆は計画的に」ね)

3つのポイント「鷹」2

 


 

↓ 他の部分も見てみます。

あやたかの「鷹」

お茶の綾鷹の「鷹」は、(フォントだから仕方ないとはいえ)二画目・三画目の接筆部分にやや違和感があります。二画目は横画の方ですので、三画目は基本的に、二画目の始筆の左下あたりから書き始めたいところです(「厚」や「原」などの一・二画目も、フォントでは縦が上に出ていますが、手書きでは、二画目の始筆を一画目始筆の左下あたりから書き始めます)。この筆文字風フォントの「鷹」の接筆は、「成」の一・二画目の接筆と同じになっています。「成」の一画目は縦画、二画目は横画ですので、縦画の始筆が横画の始筆よりもやや上に出ます。

ただ、例えば「明」字の月部分の一・二画目など、古典の文字を見た場合、横が縦よりも出ているものもありますので(縦画始筆の真上あたりに横画の始筆がある)、「基本的には」という捉え方をすることが肝要です。
3つのポイント「鷹」3

 ↓ついでにもう少し細かいところを見てみます。
あやたかの「鷹」2

フォントの形にここまで求められませんが、〇部、余韻を台無しにしないために、空間を設けておきたいところです。フォントのようになると煩雑になります。

 

神は細部に宿る

 

九成宮の「鶡」「文字内部をすっきりと明るく」のところに書きましたが、この文字を見れば、綾鷹の“鷹”に比べて石などに刻しやすいことがわかります。

 

九成宮の「為」

 

九成宮醴泉銘の「閑」
九成宮醴泉銘の「閑」

最後の点を、もう気持ち下の方に書いたらスワリがよいように思いますが、
下に書くと、ハネの余韻とかちあってしまいます。まさに絶妙な点画の布置。

(当ホームページの、文字の書き方のポイントを解説したページでは、この九成宮醴泉銘の「閑」字を、今現在のこのページの他に【文字内部をすっきりと明るく】【5つのポイント3.余白の広さの加減】でも取り上げていますが、一字を見ただけでも、以上のように、軽く3箇所のポイントが見つかります。九成宮醴泉銘では、このような精緻さが1000文字以上にわたって繰り広げられているわけです。西暦632年に、76歳の欧陽詢がこの九成宮醴泉銘を書いて以降、1400年近い間、この楷書を凌ぐ書き手はいまだに現れていません)

 

 

 

 

↓さらにもう一箇所みておきます。  活字の「鷹」と手書きの「鷹」↑ 赤丸部分の点の方向はどちらでも可。

 

赤丸部分の方向ですが、小学生の漢字ドリルなどで、よく《方向に注意》と赤い字で書いて、わざわざ、左斜め下の矢印をつけてある解説があります。(↑上の図版の左側の《鷹》字の、最初の点のような書き方です)

この、漢字ドリルなどで見かける、左斜め下に書く書き方が正しい!というように思わせる解説は、“活字の形をよりどころにしたもの”で、左斜め下に書くのが正しい、というように指導することは、本来は、よい指導とはいえません。

 

書の古典では、【馬】でも【鳥】でも、最終四画の点点点点を、上の図版の右側の、手書き《鷹》字の点点点点のように、すべて同じ方向に書く書き方はごまんとあります。

 

活字の字体をよりどころにすれば、図版左側の《鷹》字のように、最初の点を左斜め下に書くものだとついつい思ってしまいますが、本当は、左斜め下に書いても、右斜め下に書いても、どちらも〇です。指導者であれば、これくらいのことは心得ておきたいものです。心得ていて当たり前です。右斜め下に書いている人に、「間違っていますよ。左斜め下に書くんですよ」と指摘することは、正しい指導とはいえません。

よって、漢字ドリルなどの、わざわざ左斜め下の矢印をつけて、《方向に注意》とする解説は、よい解説とは私は思いません。

最初の点を、右斜め下に書いていたら間違い、というように考えてしまう端緒になります。

 

当サイトの名前見本頁には、ときどき、その見本文字をよりどころにしながら、このようなちょっとした解説を書いています。特に人を導く立場にある方はぜひご覧ください。

 

「活字の字体と手書き文字の字体は違う」
「文字には許容の形がある」
ということは、絶えず頭に入れておきたいものです。

 

きちんと理解していない指導者に習うことになれば、その生徒達があまりにもかわいそうです。子供の時に好ましくないことを習った場合は、それがちょっと間違っていたとわかるようになるまで時間がけっこうかかります。「〇〇先生がこうおっしゃっていました」と、その可否を調べもせずに信じ続けている人は滑稽です。

 

 

*ちなみに、「綾鷹」には何の恨みもございません…。
よく購入しています。

 

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