point 1 書く前に、強調する部分を見極めて、頭の中で文字の全体像を思い描く。
先ず、手書き文字では、文字の中のどこか一画あるいは一対を強調して書くということが、文字を美しく見せるための大切なポイントになります。
これを意識するだけで、文字はぐんとよくなります。強調する部分を先ず見極めましょう。美しく書ける確率がずいぶん高まります。そうすることによって、ほかの画のさじ加減も自ずと見えてきます(もっとも、口や田、目、回など、一部分を強調することができない文字もあります。また、この一画を強調すると美しいと思われる画も、古典では強調していない例もあります。このような例外については専門的になりますので、各名前見本の解説編を立ち上げることがあれば、そのときに説明します)。
書く前に頭の中で文字の形をイメージできるようになれば、次はそのイメージした形を手で再現するだけです。行き当たりばったりでは、なかなか上達しません。
文字のどの部分を強調するか。頭の中でこれをまず見極めましょう。
○「文」
「文」は三・四画目を強調します(一対強調)。
これがわかれば、二画目の長さは自ずと見えてきます。
また、概形は、だいたい三角形になるな、ということもわかります。
これでもう、美しく書けたも同然。
○「貴」
「貴」は五画目の横画を強調します。
他の部分が横広くならないように注意することが大切。貝が横広くなると締まりがなくなります。
概形は◇を意識しましょう。
○「色」
3・4・5画を引きしめることがポイント。
概形は画像のような三角形を意識します。
○「菜」
「菜」は、かなり難しい文字です。しかし、まず強調する部分を見極め、概形を頭の中で思い浮かべることができれば、だんだんと美しく書けるようになってきます。
強調する部分は、最終二画、すなわち十画目・十一画目です。これがわかれば、文字の形から考えて、概形を「台形」にすれば美しい、ということを想像できます。末広がりの形です。
台形・末広がりを思い浮かべると、草冠の横画の長さと、木の横画の長さがおのずと決まりますね。
「草冠」の横画よりも「木」の横画を長く、そして最終二画をさらに横に広げること、これで「菜」はきちんと書けるようになります。
なお、四画目は、左斜め下に向かいすぎないように注意することが大切。角度をつけすぎないように書きます(水平ぎみに)。左斜め下に向かい過ぎると、文字がどうしても縦長くなります。こうなると修正できません。
○「香」
四画目・五画目を強調します。最後の「日」部分が往々にして横広くなりますが、そうなると強調部分があいまいになってしまいます。この文字は、美しく書けるようになるまで時間がかかります。概形は〇あるいは◇を意識して。
○「青」
四画目の横画を強調します。他の部分が横広くならないようにしましょう。概形は◇を意識して。
○「山」
「山」は一画目が強調画。他の縦画は長さを抑えます。概形は△を意識して。
一部分の強調の大切さに関して、最後に、身近な例を取り上げて補足しておきます。
例えば刺身の盛り付け。
これも、むろん、メインの刺身が強調されるように盛り付けられます。
強調する部分以外は、少し控えめにしておくのが普通です。
もし、魚の切り身が五切れほどに、食用菊(小菊)を10個、大葉を20枚とか、そのようなことをすれば、目立つべき刺身が目立たないどころか食欲も失せてしまいます。
また、きちっとした的確な並べ方も大切です。
もし、お皿の中央に、まず食用菊(小菊)をぽつりと置き、その上に魚の切り身をかぶせて並べる。そして、パセリやワカメなどをその切り身の上にパラパラと散らかしてから、最後につまの大根を、全体が真っ白になるようにウワッとかぶせたとして、食欲がわくでしょうか。
同じように文字も、各線が、程よい太さや量感・程よい長さで、然るべき位置にきちんと並んでいて初めて、美味しそうに見えます。
美文字の美は、美味の美であるとも捉えたいところですね。
いかにも美味しそうに見える文字を書きましょう。