point 5 字形が整ってきて、そこからさらに文字をよくするためには、書線を鍛える。そして細部をおろそかにしない。
○「菜」
文字をよくするためには、文字を明るく見せる工夫が必要になってきます。
明るく見せるためにはどうすればよいか。
そのために大切になってくることは線質です。書線を鍛えて引きしめることが大切になってきます。 線がゆるいと文字内部の余白のみならず、文字全体がぼやけるからです。低質の米を炊いてちょっと保温しておくとダラァーとなってきますが、それは、米粒ひとつひとつがだらしないからです。おいしそうには見えません。文字も一画一画がゆるいとどうしてもダラけて見えます。
ただ、線質は一朝一夕にはよくなりません。解説すれば明日からできる、というようなものではありません。 「習うより慣れよ」です。
線質については言葉では言い表しにくいため特に説明はいたしません。画像でご確認ください。
細部をおろそかにしない、ということも、頭ではわかっていても、すぐにはできないことです。これも「習うより慣れよ」です。
例えば、車のタイヤのネジ一本おろそかにできないように、蟻の穴から堤(つつみ)も崩れるように、細かいところこそ大切です。それぞれの画には、それぞれの役割があって、点ひとつでも、その質が悪ければすべてが台無しになってしまうこともあります。それぞれがそれぞれの持ち場で力を発揮することによって、全体がまとまります。例えば刺身のツマも、目立たないながらも、各ツマがそれぞれの役割をちゃんと持って、私たちの食事を楽しいものにしてくれています。文字の各点画も、書き手がその点画に、各持ち場で力を発揮できるようにしてあげることによって、その文字は美しい文字として立ち現れてきます。
もっとも、力を込めて慎重に書く線もあればスッと軽やかに書く線もある、というような感じで、文字に緩急をもたせることはかなり大切です。生活にはリラックスする時間も必要であることと同じです。ただ、スッと気を抜きながら線を書いても雑な姿にはならないようにする、 ここがポイントです。
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ついでに、少し高度なことを最後に追加しておきます。
「木」字のような、中央に画が集まるときの、手書きでの書き方です。
活字「菜」の、「木」部のその部分と、ここに取り上げた手書きの「菜」のその部分を、それぞれ拡大してみます。A図が活字、B図が手書きです。
活字は、苦しそうに真ん中にぎゅっと画が密集していますが、手書きでは、ややずらして息苦しさを緩和するようにします。
これも、細部をおろそかにしないという、大事なポイントのひとつです。
最終画の始筆は、キワから書きはじめずに、ややずらすことがポイント。
考えることがいっぱいですが、とにかく、知っておくことが大切です。
教科書体は、ずらしているようないないような……。
それはそれとして、普通、手で書く場合は、最後から三画目の縦画はハネます。
次の画につながる気持ちがハネとして表れるという、ごく自然な形です。
もっとも、トメても大丈夫です。どちらもOK。